2021.01.09ブログ
第18回 水分・発汗(熱中症リスク、水分の種類、水分補給)
【0】水分摂取と排泄の概要
1)体水分構成と水分摂取
人体は約60%が水分で構成され、1日に約2Lの水を摂取および排泄しています。バランスを保つことで、体の細胞や組織は正常な機能を営みます。通常、ヒトは水分の約2分の1(約1L)を食品から摂取しています。
人体における体水分比:45~70%
体重に対する内訳:細胞内液40%、組織液15%、血液(血漿のみ)・リンパ液4.5%、その他の体液など0.5%
年齢における体液比:新生児約78%、4歳〜成人約60%、老人約50%以下
組織別の体水分比:血液90%、心臓80%、筋肉・肝臓72~75%、脂肪5%)
水分は食品の性状を表す基本成分のひとつで、食品の構造維持に関わります。体に入ってくる水分は、飲料から1,200ml。食品から800ml。そして体内の代謝によって生じる水を代謝水といい、1日約200~300ml生成されます。
2)排水
排出される水分は、尿が1,200ml。不感蒸泄が900ml。大便が100mlです。腎不全により尿量が減少した場合の水分摂取の目安は、前日の尿量+不感蒸泄の合計と考えましょう。
糖質と脂質が体内で完全燃焼すると、水と二酸化炭素が老廃物として生成。二酸化炭素は肺から、水は尿中に排泄されるます。それ以外に1日約900~1000mlが、不感蒸泄として皮膚から蒸発されます。
1時間の有酸素運動※を行うと、平均的若年男性は約600kcal、平均的若年女性は約400kcalを消費。これにより、男性は体重の約1.5%、女性は約1.3%の発汗量があると言われます。この程度であれば、こまめな水分補給をそこまで気をつけなくても問題ありません。
※ここでの1時間の有酸素運動は、ウォーミングアップ・クールダウンを含まない、実運動時間を指す。上記運動を含めると、運動プログラムの合計時間は、75分程度に相当する。
また発汗量は、運動量だけでなく環境温度、湿度によって大幅に変化します。室内であれば熱中症回避のために、適切な空調が不可欠です。屋外や空調のない室内では、30分毎に体重を計測し、実際の発汗量を把握して適切な水分補給をするべきでしょう。
【1】発汗
汗は血液中の血漿をろ過した、身体に必要な成分を取り除いた水分です。皮膚の汗腺と呼ばれる汗を分泌する腺が、皮膚表面(約1~3mmの厚さ)の真皮層~皮下組織にあり、そこから汗が排出されます。
ちなみに汗腺は、主に以下の3種類が存在します。
1)汗腺の種類と特徴
(1)エクリン腺(小汗腺)
全身(特に掌や足底)にあり、平均350万個あるとされています。水(99% 以上)、Na、Cl、K、Ca、重炭酸イオン、アンモニア、尿素など、結晶の成分と同じ汗を排出します。
(2)アポクリン腺(大汗腺)
腋窩、外陰部、乳首、肛門、外耳道、臍周囲などにあります。中性脂肪、脂肪酸、たんぱく質、蛍光物質、ピルビン酸、アンモニアといった臭い・粘り気のある成分の汗を排出します。
(3)アポエクリン腺
腋窩にあり、エクリン汗腺と同じ表皮に開口しています。アポクリン汗腺に似た分泌部をしていますが、分泌能力はエクリン腺の7倍あります。
2)効果
(1)体温調節
暑いときは脳の温度が上がらないよう汗をかき、体の内にこもった熱を外に出すように働きます。物質が液体から気体になるためには、分子が液体の表面から飛び出す必要があります。
液体が蒸発する際、分子が飛び出すために必要なエネルギーを得るため、周囲から熱を奪うのです。これを気化熱といいます。
脳の適温は37℃とされ、1℃上昇すると朦朧とし、2℃で思考力が低下し、それ以上で意識障害を起こします。運動経験が多い人は、広い面積でうっすら汗をかくのが特徴です(広い面積で汗をかいた方が蒸発しやすいから)。
また運動経験の多い人の汗は、体水分を無駄にせず脱水を予防するため、流れ落ちないようにうっすらとした汗をかきます。このように身体が高体温に適応することを、「暑熱馴化」といいます。
逆に低活動の人は高体温に慣れていないので、汗腺が未発達で汗をかきにくいです。顔が真っ赤ななのに、汗をかいていない場合特に危険で、「シャツの胸・背中に汗をかいていない」「顔から汗が滴り落ちている」などが当てはまる人は、暑熱馴化ができていない状態を意味します。
(2)老廃物の排泄
体の中で生じた老廃物、有害物質は体内の水分と共になって排泄されます。
(3)体内の水分量の調節
体の水分量を汗(および尿)で調節します。
(4)保湿
汗とともに分泌される皮脂で表皮を乾燥から守り、肌の潤いを維持します。
3)種類
発汗の原因による主な分類は、以下の4種類があります。
(1)温熱性発汗(味覚性発汗)
全身(特に額・鼻頭)からかく汗で、体温調節中枢が働くことで、全身の汗腺から出ます。主に体温上昇(38℃以上)が原因です。
(2)精神性発汗
掌、足底、腋下でかく汗で、精神的緊張により大脳皮質の前運動野、大脳辺縁系、視床下部などからの指令で汗をかきます。いわゆる「冷や汗」です。掌は左右でかく量に偏りがあります。
(3)病的発汗
全身から(左右同時に)発汗します。炎症性疾患や内分泌疾患、慢性発熱性疾患、糖尿病、肥満、リウマチ性関節炎などを原因にかくことがあります。
(4)自律神経症異常による発汗
全身からかく汗で、更年期障害、自律神経症失調症、心身症などを原因に、怖い夢や心理的なストレスを感じることでかきます。
【1】熱中症
医学における脱水とは、体内の水分量が不足した状態を指す言葉で、水分喪失量に対して水分摂取量が不足することで起こります。実際には水分の摂取量が不足すると、同時に水分喪失も悪化します。
1)症状と内容
(1)発熱
発熱を起こすことで、全身倦怠感が強くなり、水分摂取量も減少します。一方で発汗が進み呼吸数が多くなることで、不感蒸泄も進みます。その状態が悪化すると、脱水にも繋がりやすいです。
(2)下痢・嘔吐
ウイルス性腸炎、食中毒、コレラといった旧姓の消化器疾患と同時に見られます。嘔吐で水分摂取量が減り、下痢で水分喪失が増加するため大変危険です。下痢も嘔吐も水分だけでなく、電解質を喪失してしまいます。
2)重症度による分類
熱中症は「どのくらい症状が重たいか」という重症度により、Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3つに分類されます。
従来は熱けいれん、熱疲労、熱射病、熱失神の4分類でした。現在は重症度と相関してない部分を排除し、重症度に応じた治療が行いやすいよう分類に改められています。