2021.02.20ブログ
第24回 味覚(舌、味蕾、基本味)
味覚は五感のひとつで、嗅覚と共に口腔や鼻腔の粘膜に化学物質が作用することによって誘発されることから、化学感覚とも呼ばれます。
発育・健康保持には、食物・飲料の摂取行動は非常に重要です。味覚があることで、私達は食の楽しさを覚え、それにより食欲が刺激され、食べるという意欲が促進されます。
一方で、有毒あるいは危険だと感じた物質が、消化管に入らないよう、味覚で食物を弁別します。食物に対して、吐き出しや嘔吐が起こるのは、反射的な防御反応です。このように、味覚は生命維持のため、摂食行動を調節するための生理的反応と言えます。
味覚受容体細胞
味覚は嗅覚と同様に、化学的受容体に物質が結合することで検出されます。舌に多く存在する味蕾は、味覚受容体細胞と支持細胞から形成され、化学的受容体は味覚受容体細胞の先端(味蕾にある「味孔」と呼ばれる、開口部から突出する部分)に分布します。
人間の味覚受容体細胞は舌を中心に、軟口蓋・喉頭蓋・食道上部内面と、口・喉に広く分布しています。舌乳頭上には味蕾が存在し、舌乳頭には茸状乳頭(舌の前方部約2/3に多く、成人になると退化する)、葉状乳頭(舌の後ろ両側部に多いが、人間は未発達)、有郭乳頭(分界溝前部に分布)などに分類されます。舌表面に広く存在している小形の糸状乳頭には味蕾は存在しません。
味蕾
1つの乳頭に存在する味蕾の数は、33個~508個とばらつきがあり、平均は約250個。味蕾全体の数は、1万個以上とも言われています。私達は味蕾に存在する化学受容体を介し、味を感じるわけです。
しかし、化学受容体を介した後の舌咽神経、顔面神経へのシナプス伝達機構は、現在でも判明していないことが多いです。
舌
味覚を司るのは舌という筋肉です。舌を鍛えることで、鋭敏に味を感じられるようになり、さらに料理を楽しめるようになります。
1942年、味を感じる舌の部位が味によって異なるということが発表されました。以来、これは真実としされてきましたが、2000年に味蕾の化学受容体が見つかってからは、味蕾の受容器にある味覚細胞によって、味蕾ひとつひとつがすべての基本味を感知するということが、現代の常識となったのです。
味の基本要素とうま味の発見
味の基本的な要素は、長年に渡り甘味・酸味・塩味・苦味の4基本味と言われてきました。1916年、ドイツの心理学者ヘニングが、4つの味とその複合で全ての味覚を説明する4基本味説を提唱します。
ヘニングによると、4基本味を正四面体に配置(味の四面体)し、それぞれの基本味の配合比率に応じて、四面体の稜上あるいは面上に多種多様な複合味が位置づけることができると考えたのです。
実際に、味覚物質の「味の強さ」を表現する言葉として、味の閾値というものがあります。閾値には刺激閾値(味覚刺激を感知できる味覚物質の最低濃度)と、弁別閾値(2種類の刺激の違いを認識できる味覚物質の最低濃度)の2種類があります。そして、食品中の2種類以上の味覚物質が、相互作用を示して様々な味の刺激を生み出すのです。
食品の相互作用
・相乗効果
同種の2種類以上の味を与えることで、単独で存在する場合の感覚量の総和以上の感覚が認知される。
(例)グルタミン酸ナトリウムに核酸系のうま味を加えるなど
・対比効果
少量の異なる味を同時あるいは継続して与えると、主となる味が強められる。
(例)スクロースに少量の食塩を添加すると、甘味が強くなるなど
・相殺効果(抑制効果、マスキング効果)
複数の異なる味が共存するとき、一方(または双方)の味が弱まる。
(例)酸味の強い果物にショ糖を加えると、酸味・甘味が弱まるなど
・味覚修飾(味覚変革)
ミラクルフルーツに含まれるミラクリンというたんぱく質は、それ自体甘くないが、口に入れると酸味と甘味として感じる。
・味覚抑制
トリテルペン配糖体のギムネマ酸を口に含んだ後、スクロースの甘さを感じなくなる。
1)甘味
砂糖をなめたときの甘いという感覚は、糖以外にグリコール・ケトン・アルコール・アミノ酸など、多くの物質で引き起こされます。甘味は舌上のG蛋白共役受容体(GPCR)というたんぱく質によって認識されます。
2)酸味
レモンをなめたときに感じる「すっぱい」という感覚は、酸によって起こる感覚です。感覚の強さは、水素イオンの解離度の違いによって引き起こされます。
3)塩味
塩を舐めたときに感じる塩辛い感覚は、主にナトリウムイオンによって引き起こされます。
4)苦味
キニン、ニコチン、カフェインなどアルカロイドや窒素を含む有機物等によって起こる感覚です。動物は特に、苦いという感覚に敏感です。苦味に敏感な理由は、植物の毒素の多くはアルカロイドであり、身体を守るためと考えられています。
苦味はG蛋白共役受容体(GPCR)によって認識されます。
苦味物質には、おおよそ次のようなものが挙げられます。
・カフェイン(緑茶、紅茶、コーヒー)
・テオブロミン(ココア、チョコレート)
・フムロン(ビール)
・ナリンギン(なつみかん、グレープフルーツ、柑橘類果皮)
・リモニン(柑橘類種子)
・ククルビタシン(きゅうり)
・苦味ペプチド(チーズ、豆みそ、しょうゆ)
など
5)うま味
1908年に池田菊苗(味の素株式会社)が、うまみ味物質であるグルタミン酸ナトリウム塩を発見。4基本味ではこの味を説明できなかったため、日本ではこれを基本味とする認識が広まります。しかし西洋では、4基本味説が支持され続け、うま味は認められませんでした。
1985年山口静子氏(味の素株式会社)が、数学的解析から第5の基本味「うま味」の存在を提唱。この成果は単行本“Umami: A Basic Taste”として出版され、“Umami”は国際的学術用語として公式使用されるようになりました。
2000年には、味蕾細胞にグルタミン酸を感知する受容体が存在することが判明。改めて、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味を生理学的に「5基本味」と位置づけられるようになったのです。
うまみの分類(三大うま味成分)
昆布や野菜に含まれるグルタミン酸。かつお節などの魚介類、肉類に含まれるイノシン酸。干し椎茸に含まれるグアニル酸。この3種類を、三大うま味成分と呼びます。
うま味に関連する物質は、アミノ酸系・核酸系・有機酸系に大別されます。グルタミン酸はアミノ酸、イノシン酸・グアニル酸は核酸にそれぞれ分類されます。
1)アミノ酸系
たんぱく質自体は無味ですが、アミノ酸には甘味・苦味・旨味などを中心に、様々な味があります。うま味を感じる代表的なアミノ酸は、昆布や野菜類、発酵食品に含まれるグルタミン酸です。
(1)グルタミン酸
グルタミン酸はG蛋白共役受容体によって認識されます。 母乳にはグルタミン酸が非常に豊富、それにより赤ちゃんは旨味を識別することができます。赤ちゃんは酸味・苦味を嫌いますが、甘味や旨味を含んだ野菜スープは好む傾向にあります。
グルタミン酸は体内でも合成されます。食品は熟成に従いうま味成分が増加します。例えばトマトは、真っ赤に熟す頃にグルタミン酸の量がピークに達します。肉類や魚類も、熟成によってグルタミン酸が増えます。筋肉中にエネルギー源として貯蔵されたATPが分解され、イノシン酸になり、肉や魚に含まれる旨味成分が増えるのです。
グルタミン酸は、ほぼ全食材に含まれます。特に昆布や野菜、チーズなどの発酵食品、味噌や醤油などの発酵調味料などに豊富です。
2)核酸系
核酸は、ヌクレオチドとも呼ばれるリン酸を含んだ物質です。生物の代謝や運動エネルギー源となる、アデノシン三リン酸が有名です。うま味物質として知られているのは、煮干し、かつお節、魚、肉類に多いイノシン酸と、干しきのこ類に多く含まれるグアニル酸です。
(1)イノシン酸
アデノシンから生じるイノシンにリボース、燐酸1分子がついたものです。生物の体内に存在する、ヌクレオチドの一種です。イノシン酸は天然の動物組織内に存在しています。魚肉(特に鰹節)・畜肉に含まれるうま味の主成分で、調味料としても生産されます。
(2)グアニル酸
1960年、ヤマサ研究所の国中明氏によって発見され、翌年に干しシイタケのうま味成分であると解明されました。シイタケのグアニル酸は、シイタケの酵素によって、核酸から変化して生成されます。生シイタケの場合、組織をすりつぶして数時間放置すると発生します。
グアニル酸が多い食材は、干し椎茸も含む乾燥キノコ類全般、海苔、ドライトマト、ホタテ貝、ポルチーニ、ずわいがに、ウニなどです。生のキノコ類には少ないものの、乾燥や冷凍後に加熱で何倍にも増えます。
グアニル酸は、調理前の干し椎茸などの乾燥キノコには、多く含まれていません。水に戻す過程(5℃の冷水で5~10時間)でリボ核酸が増加し、強火で一気に加熱した後に弱火で熱すると、45~60℃でグアニル酸がグアノシンに変化。80℃以上でグアニル酸の増加酵素が失活します。
(3)有機酸系
窒素を含まない炭素化合物のことで、酢酸、クエン酸、乳酸、コハク酸が有名です。この中でうま味に該当するのは、貝類に多く含まれるコハク酸です。
海苔
海苔は、グアニル酸・グルタミン酸・イノシン酸の三大うま味成分を全て含む、非常に珍しい食材です。海苔は「海の野菜」とも言われ、良質のたんぱく質に加えてカルシウム、ビタミンA、ビタミンB12などを多く含みます。日本では8世紀頃から親しまれている食材ですが、世界を見渡すと、海苔を食べる文化を持つ国は多くありません。
海苔は軽く炙ることで、核酸類が増加します。海苔のうま味成分は、主にグルタミン酸などのアミノ酸類ですが、焼くことでイノシン酸・グアニル酸・アデニル酸などの核酸類が増加し、アミノ酸類の甘みを引き立ててくれます。
うま味の相乗効果
うま味物質は単独で使うよりも、アミノ酸であるグルタミン酸と、核酸系のイノシン酸やグアニル酸を組み合わせることで、うま味が飛躍的に増します。これを「うま味の相乗効果」と呼びます。
(例)
日本料理:昆布(グルタミン酸)とかつお節(イノシン酸)で出汁を取る
西洋料理や中国料理:野菜類(グルタミン酸)と肉類(イノシン酸)で出汁を取る
「うま味の相乗効果」が発見されたのは1960年のことですが、それ以前から世界各地で、経験としてこの知識が料理に活かされてきました。
補助味
補助味には、辛味、渋味、えぐ味の3種類があります。
1)辛味
辛味物質は、辛みのあるもの・ないものの2つに分類することができます。
(1)第1群
そのままで辛味のある酸アミド類、バニリルケトン類などが含まれます。
・カプサイシン(とうがらし)
・ピペリン、チャビシン(こしょう)
・サンショオール(さんしょう)
・ジンゲロン、ショウガオール(しょうが)
など
(2)第2群
そのままでは辛味がなく、植物内に前駆体として存在するイソチオシアネート類などが該当します。
シニグリン(わさび、黒がらしに含まれる)という配糖体は、すりつぶしたときに植物内で共存するミロシナーゼという酵素の作用で、アリルイソチオシアネートが発生。これが辛味を生みます。
2)渋味
カテキン類(茶)、アントシアニジン(ワイン)、シブオール(柿)などが挙げられます。
3)えぐ味
いわゆる「灰汁」の味であり、ホモゲンチジン酸(たけのこ)、タンニン(お茶)、シュウ酸(ほうれんそう)などがあります。
コラム:基本味は将来も増え続けるかもしれない
辛味物質、アルコール、炭酸飲料といった化学的刺激や、温度(熱さ・冷たさ)、舌触り(つぶつぶ、柔らかい、硬い、滑らか)などの物理的刺激は、基本味と合わせて総合的な味覚を形成します。しかし、味覚刺激の全てについて、神経に伝達されるまでの機構は未だに解明されていません。
なお、辛味の受容体はこれまでに2種類明らかとされています。カルシウム、脂肪などに応答する味細胞が存在することも報告されているので、将来的には、基本味は増えかもしれません。
基本味が他の要素(嗅覚、視覚、記憶など)で拡張された、知覚心理学的な感覚としての味は、風味と呼ばれます。
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