2021.05.01ブログ
第34回 乳製品と腸内環境〜牛乳と乳糖〜
腸内環境を整える腸内細菌のうち、善玉菌としてよく知られる乳酸菌は、乳製品などによく含まれている。しかしその乳製品が、腸内環境に悪影響を及ぼすことも少なくない。特に日本人に馴染み深い乳製品である「牛乳」の腸内環境への影響は、よく取り上げられている。
牛乳でお腹を下す原因
牛乳を飲むとお腹がゴロゴロ鳴り、場合によっては下痢をする人が日本人には多い。その原因は、牛乳に含まれる「乳糖」ではないかと考えられている。
母乳を飲んで育つ乳児は、乳糖を分解する酵素を持つ。しかし年齢を重ね母乳が不要となるにつれ、乳糖分解酵素は不活性となっていくのである。その結果、成人後に牛乳を飲むと、腸内環境が悪化し下痢になると考えられている。
また日本人の場合、欧米諸国に比べて乳糖分解酵素を持っていない割合が高いとされるが、実態は異なる。そもそも日本人は「乳糖不耐症」とあり、乳糖分解酵素の活性が低いという特質を持つ。そのため、乳糖分解酵素であるラクターゼの活性がほぼないのだ。
アジアは乳糖不耐症が多い
2016年、日本人が乳製品を主食とする遊牧民の生活を体験するという実験をした。家族は8人構成で、朝6時に起床しミルクを絞る。モンゴルでは生活の半分を都市で過ごし、残りは草原に囲まれ、牛、馬、羊、ヤギ等からの乳製品を主食として生活する。
実際に、彼らは1日に約3Lの牛乳を飲んで生活。絞った乳は軽く煮沸殺菌を加え、ロシアから入荷したお茶を入れて乳茶としていた。そこに、ミネラル不足を防ぐために岩塩を加えていたという。
乳製品中心の生活を送るモンゴル人の遊牧民族だが、複数の研究で、日本人と同じく乳糖不耐症だと報告されている。中国人も同様で乳糖不耐症が多く、欧米諸国になるにつれて乳糖不耐症は減少傾向になる。
アフリカはどうかというと、遊牧民のダドガ族は、1日に約4~5Lの牛乳を、ひょうたんの発酵・殺菌して飲んでいる。ケニア、タンザニアに住むマサイ族も、伝統生活を営んでいる人々は1日約5~6Lの牛乳を飲む。彼らに対して行った研究では、マサイ族も約62%が乳糖不耐症だったという。
しかし、マサイ族は日本人の様な下痢等の症状はない。
分解できない糖=悪玉菌なのか?
ここで大きな疑問が残る。それは、「乳製品に代表される『分解出来ない糖』は、全て悪玉菌と繋がるのか」という点だ。人は乳糖以外の糖も摂取するが、全てが小腸で分解されるわけではない。大腸の腸内細菌によって、分解される食物は少なくない。
同じく不耐症と言えば、食物繊維も挙げられるだろう。しかし、「食物繊維不耐症」という言葉は聞いたことがない。オリゴ糖、セルロースも同様で、乳糖不耐症=腸内環境の悪化という考えは、無理やりこじつけられている感が否めない。
マサイ族、遊牧民の腸内環境が良好な理由
小腸の消化酵素で分解出来ない糖は、腸内細菌のエサとなり分解される。そして小腸で分解されなかった乳糖は、大腸まで運ばれてビフィズス菌、乳酸菌のエサとなる。実はマサイ族やモンゴル遊牧民の腸内環境は、非常に良好だ。彼らは乳糖を上手く利用しているのである。
遊牧民は野菜や食物繊維をほぼ摂らない。その代わり、乳糖を使って腸内環境を整えている。この点から、乳糖は食物繊維と似た作用を持つと考えられる。乳糖は単体ではなく、乳中のホエイというタンパク質と一緒に存在するため、ビフィズス菌、乳酸菌のエサになりうる。
このように、なぜ遊牧民は乳製品を有効活用できているのか。その理由は、日本人と「摂取する乳製品の質が異なる」という点にある。低温殺菌ノンホモ牛乳を摂取した場合、熱変成しないホエイタンパク質と一緒に対外へ排出されるため、下痢等になりにくいことが分かっている。
この遊牧民の摂取する牛乳は、生乳に非常に近い。そのためホエイタンパク質が変成していないのである。それに対して、日本人が口にする乳製品は、ほとんどが超高温殺菌されている。ホエイタンパク質、ガゼインが熱変成し、生理活性の役割も喪失。その結果、乳糖が大腸での水分吸収を妨げ、下痢を招きやすくしているのである。
生理活性の喪失した変成タンパク質は、胃から腸に行くスピードが非常に早く、消化吸収する時間がない。そのため、腸内のpHがアルカリ寄りになり、窒素分が多くのアンモニアに変成し、乳糖の正常な発酵作用は減少する。低温殺菌のノンホモ牛乳の場合、胃から腸にゆっくり届くため、腸内pHは変動しない。
日本人やアジア人と同様に、モンゴルやマサイ族などの遊牧民も乳糖不耐症である。しかし彼らの摂取する乳製品は、ほとんど生乳に近い状態であるため、変成タンパク質にならず腸内環境正常化に働くのである。乳糖=悪玉なのではなく、日頃から摂取している製品の「製法」に、問題があると言えるだろう。
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