2021.08.07ブログ
第47回 代謝異常症
1)アミノ酸代謝異常
アミノ酸代謝異常症とは、アミノ酸代謝に関わる酵素の異常を原因とされている。毒性物質の蓄積、もしくはアミノ酸欠乏によって臓器障害(特に脳、肝臓、腎臓)をきたす疾患を指す。
1−1) フェニルケトン尿症
血清中フェニルアラニン濃度の上昇により、認知および行動障害を伴う知的障害の臨床症候群。 主な原因は、フェニルアラニン水酸化酵素の活性低下が挙げられる。
1−2)メープルシロップ尿症(楓糖尿症)
分枝鎖アミノ酸(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)由来の分枝鎖ケト酸(BCKA)の酸化的脱炭酸反応を触媒する、分枝鎖ケト酸脱水素酵素(BCKDH)の障害に基づく先天代謝異常症。
1−3)ホモシスチン尿症
メチオニンの代謝産物であるホモシステインが、血中に蓄積する常染色体劣性遺伝性疾患。 ホモシステインの重合体であるホモシスチンが、尿中より検出される。
1−4)アルギニノコハク酸合成酵素欠損症(シトルリン血症1型)
尿素サイクルの三段階目の酵素である、アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)の欠損症。ASSはシトルリンとアスパラギン酸からアルギニノコハク酸を合成する。ASS欠損症では高アンモニア血症とともに、血中シトルリンが高値となる。そのためシトルリン血症I型(CTLN1)とも呼ばれる。
1−5)アルギニノコハク酸尿症
アルギニノコハク酸尿症(ASA)はアルギニノコハク酸分解酵素(AL)の欠損により、高アンモニア血症をきたす常染色体性劣性遺伝性疾患。尿素サイクルの四段階目の酵素がALで、アルギニノコハク酸をアルギニンとフマル酸へと分解する。
2)有機酸代謝異常
有機酸代謝異常症は、アミノ酸の代謝に必要な酵素が生まれつきうまく働かないために、有機酸と呼ばれる物質が体にたまり、さまざまな障害を引き起こす。
2−1)メチルマロン酸血症
必須アミノ酸であるバリン・イソロイシン代謝経路上の酵素、メチルマロニルCoAムターゼ (EC 5.4.99.2; MCM)の活性低下によって、メチルマロン酸をはじめとする有機酸が蓄積し、代謝性アシドーシスに伴う各種の症状を起こす。
2−2)プロピオン酸血症
先天性有機酸代謝異常症の一つで、体内にプロピオン酸を中心とする有機酸が蓄積し、ケトーシス、アシドーシスを生ずる遺伝性疾患の総称。プロピオニルCoAカルボキシラーゼの遺伝子異常による活性低下により、プロピオニルCoAが上昇。プロピオニルCoAがトリカルボン酸回路、尿素回路、その他の代謝系素酵素群の活性を阻害するため、様々な代謝異常が起こる。
2−3)イソ吉草酸血症(IVA)
ロイシンの中間代謝過程で働くイソバレリル CoA 脱水素酵素(IVD)の障害によって生じる、常染色体劣性遺伝の疾患。発作時に「足の蒸れたような」「汗臭い」といった体臭を出し、哺乳不良、嘔吐、意識障害で発症する。
この悪臭は中間代謝産物であるイソ吉草酸が由来である。イソ吉草酸はすぐに 3‐ヒドロキシイソ吉草酸などに代謝されるため、尿中への排泄は少なく、尿よりも汗などの分泌物の匂いが強い。本疾患はガスクロマトグラフィー(GC)分析で発見された初めての代謝異常症として知られている
2−4)メチルクロトニルグリシン尿症(MCG)
ロイシンの中間代謝過程で働く、3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ(MCC)の障害によって生じる、常染色体劣性遺伝の疾患。
2−5)ヒドロキシメチルグルタル酸血症(HMG血症)
ミトコンドリアに存在する「3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA (HMG-CoA)リアーゼ」の欠損により、肝臓でケトン体産生とロイシンの中間代謝が障害され、非ケトン性低血糖と代謝性アシドーシスをきたす、常染色体劣性遺伝の疾患のひとつ。
約半数が新生児期に,そのほかは乳幼児期に嘔吐や意識障害、けいれん等で急性発症する。20%は発作時に死亡するとされ、発達遅滞などの後遺症を残す症例も多い。
2−6)複合カルボキシラーゼ欠損症
プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCC)、メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ(MCC)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)の4種類は、ビオチンを補酵素とするカルボキシラーゼである。
先天性ビオチン代謝異常では、これらの活性が同時に低下する複合カルボキシラーゼ欠損症となる。先天性ビオチン代謝異常症は、ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症とビオチニダーゼ欠損症の2種類に大別される。
2−7)グルタル酸血症 1 型
リジン、ヒドロキシリジン、トリプトファンの中間代謝過程で働く、グルタリルCoA脱水素酵素の障害によって生じる、常染色体劣性遺伝の疾患。
中間代謝産物であるグルタル酸、3-ヒドロキシグルタル酸などの蓄積が中枢神経、特に線条体の尾状核や被殻の障害を来す。多くは生後3~36か月の間に、胃腸炎や発熱を伴う感染などを契機に急性脳症様発作で発症する。
3)脂肪酸代謝異常
脂肪酸代謝異常症は、脂肪酸β酸化によって脂肪からエネルギーを作り出す過程に関わる酵素や、※担体の遺伝的な異常をその原因とするものである。 空腹時や運動時にエネルギー不足に陥り、様々な障害をきたす。
※担体
生物体で、種々の物質と結合し輸送する物質。
3−1)中鎖アシル CoA 脱水素酵素欠損症(MCAD欠損症)
アシルCoAの中でも中鎖(炭素数4〜10)の直鎖の脂肪酸を代謝するMCADの欠損である。3〜4歳以下の、急性発症までは何ら特徴的所見や既往をもたない小児が、感染や飢餓を契機に急性脳症様/ライ様症候群様の症状を呈する。いったん発症すると死亡率が高く、乳幼児突然死症候群(SIDS)の一因として知られる。
3−2)極長鎖アシル CoA 脱水素酵素欠損症(VLCAD)
はミトコンドリア内膜上内側に存在する酵素であり、三頭酵素ととともに長鎖脂肪酸のβ酸化を担う。
3−3)三頭酵素/長鎖 3-ヒドロキシアシル CoA 脱水素酵素欠損症
三頭酵素(TFP)はミトコンドリア内膜に存在し、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)に引き続いて炭素鎖16〜12付近の長鎖脂肪酸のβ酸化を行う、長鎖エノイルCoAヒドラターゼ(LCEH)、長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)、長鎖3-ケトアシルCoAチオラーゼ(LCKT)の3つのドメインをもつ酵素たんぱくである。
これら3つの酵素活性がすべて欠如している場合をTFP欠損症、LCHAD活性のみ欠如している場合をLCHAD欠損症とよぶ。わが国ではTFP欠損症の報告が多く、LCHAD欠損症の報告はない。
3−4)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1 欠損症
カルニチン回路異常症の1つで、フリーカルニチンからアシルカルニチンの生成が障害される、血中フリーカルニチンが増加。総カルニチン量も正常~軽度増加する。これにより長鎖脂肪酸のミトコンドリア内への転送が障害され、脂肪酸代謝が十分行われずにエネルギー産生低下を引き起こす。
新生児期発症型はけいれん、意識障害、呼吸障害などで急性発症し、著しい低血糖や高アンモニア血症、肝逸脱酵素の上昇などをきたす。
3−5)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-2 欠損症
カルニチン回路異常症の1つで、フリーカルニチンからアシルカルニチンの生成が障害されることにより、長鎖脂肪酸のミトコンドリア内への転送が障害され、脂肪酸代謝が十分行われずにエネルギー産生低下を引き起こす。新生児期発症型はけいれん、意識障害、呼吸障害などで急性発症し、著しい低血糖や高アンモニア血症、肝逸脱酵素の上昇などをきたす。乳児期以降は飢餓時や発熱時に、Reye様症候群として発症する。急性発症が死亡につながる症例もある。
4)糖質代謝異常
先天性、後天性など原因によって症状は変わり、肝腫大(肝臓が大きくなる)や低血糖(空腹感や手足の震え)、下痢といった症状が見られる。糖質代謝異常症が疑われる場合、血液検査や便検査、病理検査(肝臓や腎臓の一部を取り出して調べる)が行われる。
4−1)ガラクトース血症
ガラクトースをグルコースに変換する酵素が、遺伝学的に欠乏することによって引き起こされる。肝臓・腎臓の機能障害や認知障害、白内障、早発卵巣不全などの症状が見られる。診断は、赤血球の酵素分析によって行われる。治療法は食事からのガラクトースの除去がある。身体的予後は治療により良好だが、認知性および動作性は正常とならないことも多い。
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