2021.09.25ブログ
第52回 たんぱく質の「質」の考察
(1)桶の理論
肉類、魚介類、大豆、サプリメントなどで摂取したたんぱく質の利用効率は、摂取源の構成アミノ酸のなかで、もっとも含有量の少ないアミノ酸の摂取量に依存するとされる。これが一般に「桶の理論」として知られる考え方である。他の栄養素でも同様の言葉が用いられるため、「アミノ酸の桶の理論」と限定して呼称される場合も多い。
動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の違いとして、必須アミノ酸のバランスが挙げられる。植物性たんぱく質は一部の必須アミノ酸が不足する影響で、動物性たんぱく質よりも体内への吸収率が制限されるという意見が多い(動物性たんぱく質の吸収率は97%、植物性たんぱく質は84%と言われている)。
(2)アミノ酸スコア
アミノ酸スコアは、食材のたんぱく質の「質」を示す指標のひとつである。以下の計算をもとに、その数値が算出できる。
(食品たんぱく質中の第1制限アミノ酸含量(mg/gN)÷アミノ酸評点パタンの当該アミノ酸量(mg/gN))×100
アミノ酸量というのは、たんぱく質を構成する窒素1gあたりに占める、必須アミノ酸の量をmg単位で表示したもの。アミノ酸評点パタンとは、FAO(国際連合食糧農業機関)、WHO(世界保健機関)が制定するアミノ酸の基準値である。そのなかでもっとも比率が低いアミノ酸を「第1制限アミノ酸」とし、たんぱく質の評価値として評価している。
アミノ酸スコアの一例
・精白米 65(第1制限アミノ酸:リジン)
・卵 100
・牛乳 100
・プロセスチーズ 91((第1制限アミノ酸:メチオニン)
・ジャガイモ 68(第1制限アミノ酸:ロイシン)
・里イモ 84(第1制限アミノ酸:イソロイシン)
・牛肉、豚肉、鶏肉 100
・魚類 100
・トマト 48(第1制限アミノ酸:ロイシン)
・みかん 50(第1制限アミノ酸:ロイシン)
1)PCDAAS、DIAAS
アミノ酸スコアの数値に対して、「たんぱく質の種類によって消化・吸収性は異なるため、その点も加味する必要がある」という見解が示された。1990年代、WHOが定めた「たんぱく質の消化性を加味した「たんぱく質消化性補正スコア(PDCAAS)」という評価法が登場。2013年には、FAO(国際連合食糧農業機関)がレポートにて「消化性必須アミノ酸スコア(DIAAS)」を採用すべきとしている。
アミノ酸スコア、PDCAASでは、100%以上のスコアはすべて切り捨てられ、最大100%で表示される。DIAASでは100%以上のスコアは切り捨てずに評価するため、より正確な評価ができる(DIAASの場合、粉乳は122%となる)。一方、DIAASで評価された品数は非常に少ないため、食事の活用はまだ難しいのが現状だ。
(3)動物性たんぱく質と植物性たんぱく質
一般的にホエイプロテイン(動物性たんぱく質)はソイプロテイン(植物性たんぱく質)よりも、消化吸収が早いとされている。またソイプロテインは中性脂肪の低下に作用することから、ホエイプロテインはパワー向上、ソイプロテインは減量向けと区別されやすい。
武庫川女子大学では、2種類のたんぱく質をラットに摂取させた際の、体内に吸収されるアミノ酸の種類、消化吸収速度を比較。動物性たんぱく質の場は、BCAA(分岐鎖アミノ酸)の吸収量が多く見られた。逆に植物性たんぱく質ではアスパラギン、アルギニン、グリシンの吸収量が多かったという。
また、各アミノ酸の最高血中濃度到達時間で消化吸収速度を比較したところ、一般的な意見と同様に、動物性たんぱく質の方が吸収速度が早かった。運動後の必須アミノ酸補給には、動物性たんぱく質(ホエイプロテイン)を。非必須アミノ酸の補給では、植物性たんぱく質の摂取が望ましいと言える。
(4)ホエイ(乳清)たんぱく質とカゼインたんぱく質
乳たんぱく質は、ホエイ(可溶性)とカゼイン(不溶性)に分けられる。前者の方が消化吸収性が早く、筋たんぱく質合成効果が高いとされる。それぞれのたんぱく質を摂取した上で、10週間のトレーニングを行った場合、ホエイの摂取群のほうが除脂肪量の増加量が高いという研究も報告されている。
1)乳たんぱく質の競技パフォーマンスへの影響
武者由幸らは陸上長距離選手のコンディションや競技パフォーマンスに及ぼす、乳たんぱく質強化乳飲料の継続摂取の影響を調査。男子選手19名(有効データ13名)に乳たんぱく質強化乳飲料を16週間継続摂取させ、身体計測と血液生化学検査を実施。
高負荷トレーニングで体重・筋肉量の減少が見られたものの、16週間後の10,000m走の記録では、13名中12名の選手が摂取前のベストタイムを更新。乳たんぱく質の継続摂取が、筋損傷の抑制、疲労感の改善、競技パフォーマンス向上に寄与するという結果が得られた。
2)食事によるたんぱく質摂取
「たんぱく質の摂取」という点にのみフォーカスすると、例えば乳たんぱく質と牛肉で比較したとき、乳たんぱく質の方が筋たんぱく質合成の影響は大きかった。また食事によるたんぱく質摂取は、調理方法でも効率が変化する。牛肉をミンチにした場合とそのまま加熱した場合では、ミンチにしたほうがネットバランス(組織の合成・分解の差)が高いという研究がある。
また、筋たんぱく質合成を最大化するのに、乳たんぱく質では20gが必要だった一方で、牛肉ステーキでは36g(全体で170g)のたんぱく質が必要だったという報告も。摂取するたんぱく質の状態によって、必要な摂取量が変化すると言えるだろう。
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