2021.10.30ブログ
第57回 アスリートの鉄欠乏と貧血の関連
ミネラルのひとつである鉄は、体内に約3~4g存在する。その大半が、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの材料(ヘモグロビン鉄)として使用される。ヘモグロビンは、たんぱく質(グロビン)と鉄が結合してできており、呼吸によって取り込まれた酸素と肺で結びつき、骨格筋など各組織へと運搬される。
鉄はそれ以外に、※ミオグロビン電子伝達系、代謝酵素の補分子でのヘム鉄として使われたり、骨髄や※網内系細胞、肝臓に貯蔵されている。鉄は日本人の多くが欠乏していると言われるミネラルだが、スポーツ選手の場合、鉄欠乏が大きなパフォーマンス低下、体調不良につながる危険がある。
※ミオグロビン
筋肉に含まれる、たんぱく質のグロビンと鉄を含む色素ヘムとが結合した色素たんぱく質。
※網内系細胞(細網内皮系細胞)
間葉に由来し、異物を貪食することにより生体の防御に関与している細胞の総称。脾洞内皮や脾索の細網細胞、リンパ洞の細網細胞や内皮細胞、肝臓のクッパー細胞、骨髄の毛細血管内皮細胞、単球、組織球、肺胞の塵埃細胞、脳の小膠細胞などが含まれる。
(1)スポーツ選手の貧血と鉄との関連
鉄欠乏性貧血(血中のヘモグロビン濃度が非常に低い状態)は、アスリートに多いとされている。ヘモグロビンの数値は正常なのに、体内の鉄の貯蔵量が非常に低いタイプの鉄欠乏も珍しくない。
スポーツをはじめとする運動で、貧血が起こるのは次のような要因が考えられる。
・身体の成長や筋肉量増大による鉄需要の増加
・運動に伴う溶血、赤血球破壊の亢進(後述)
・汗からの鉄の喪失
・消化管、尿路系からの出血に伴う鉄の喪失
・ トレーニングによる疲労
・疲労による食事に伴う鉄摂取量の低下
・一過性の循環血漿量増加に伴う希釈性の貧血(後述)
1)成長、筋肉量増大に伴う鉄需要の増加
成長や筋肉量増大により、ミオグロビン量が増加することで鉄の需要が高まる。成長期や増量期では、注意しないと鉄欠乏の可能性が高まる。
2)発汗による鉄の喪失
汗に含まれる鉄の含有量は、300~400μg/Lとされている。2~3Lの汗をかいたなら、その排出量は1~2mgと1日に吸収される鉄の約10%となる。大した量には見えないが、炎天下で発汗が多い競技では、鉄喪失量の増加=貧血のリスクが高いと言えるだろう。
(2)貧血の種類
貧血には多くの種類がある。
1)鉄欠乏性貧血
アスリートの貧血でもっとも多いタイプ。先に紹介した発汗による鉄喪失が特に知られている。運動量の多いスポーツはもちろん、猛暑など夏場は特に注意が必要で、夏バテとの関連も深い。
2)希釈性貧血
運動やトレーニングをはじめると、末端までの血液の循環をよくするため、血漿(血液の液体成分)を増やし血液を薄く(サラサラに)する機序が働く。この作用に対して、ヘモグロビン量はすぐ増加しない。結果として見かけ上ヘモグロビン濃度が低くなる(希釈される)。とはいえ、希釈性貧血自体は一時的なものなので、対策を講じる必要はないとされている(実際に体内の鉄が喪失されていることが、貧血の原因ではないため)。
3)運動性溶血性貧血
足裏の衝撃により、赤血球が壊れやすくなることで起こる貧血。赤血球の寿命は約120日が一般的で、骨髄で生成され一定量が維持されている。しかし、スポーツで壊れてしまう赤血球の数が多くなると、骨髄の生成量では追い付かず赤血球量の低下=貧血が引き起こされる。マラソンや駅伝など陸上の長距離、サッカー、バレーボール、バスケットボール、剣道など、足裏に衝撃の強いスポーツに特に多いとされる。
近年は健康目的でジョギング、ランニングを行う人も増えたが、コンクリートなど足場が堅固な場所でのランニングは、運動性溶血性貧血のリスクが高い。競技ではなく健康増進を目指すクライアントには、それとなく注意を促す必要があるだろう。
3)IDNA(Iron Depletion without Anemia)
日本語では「貧血を伴わない鉄欠乏」と訳される。ヘモグロビン値が正常でありながらフェリチン(鉄結合性たんぱく質の一種)が減少した状態が持続する現象を指す。アスリートに多いことから、「スポーツ貧血」と呼ぶ書籍もある。
周知のごとく、フェリチンは貯蔵鉄の指標として評価されるが、IDNAはスポーツにより鉄喪失が増え、身体が潜在的鉄欠乏に陥っていることの警告と解釈できる。いわば欠乏性貧血の前段階と位置づけられる状態だ。フェリチンの正常値にはかなり幅があり、下限の設定の基準はない。一部文献では、下限値を女性20μg/L、男性30μg/Lとしている。
4)女性アスリートの深刻な鉄欠乏
女性アスリートは、先に紹介した鉄欠乏の原因に加え、妊娠・授乳による鉄需要の増加や、月経等に伴う出血による鉄喪失、また偏食やダイエットによるLEA( 利用可能なエネルギー不足)に伴う鉄摂取不足と、男性以上に鉄欠乏に陥るケースが多い。特にLEAは、女性アスリートに発現しやすい健康管理上の問題のひとつにも上げられる(「女性アスリートの三主徴」といい、LEA以外には月経障害、骨粗鬆症がある)ほど、注意が必要だ。
5)LEAと貧血
大学の男子陸上競技選手7名に、数日間の食事制限を実施して意図的にLEAの状態としたうえで、持久性トレーニングを実施した結果、ヘプシジン濃度が上昇したという研究がある。また、ある研究では一般女性22名を炭水化物の非制限群と制限群に分けて3日間経過観察したところ、制限群の女性のヘプシジン濃度が、食事制限の3倍以上に増えたという。
肝臓から分泌されるホルモンであるいヘプシジンは、体内の炎症を抑える効果がある一方で、鉄の吸収を抑制する。糖質制限ダイエットなどを行っている人は、慢性的な鉄欠乏の危険が高いと言えるだろう。
(3)鉄分補給のポイント
春日井ら(1992)は、運動が尿、汗、便中の鉄分排泄に及ぼす影響を調査。筑波大学のアスリート5名を対象にした実験では、汗中の鉄の排泄量は1.076±0.118mgと、人体から生理的に排泄される全鉄の約70%となった。運動期間中の糞便中の鉄排泄量は、それ以外の期間と比べて有意に少なかったという。糞便量はエネルギー消費量と正の相関があり、糞便中の鉄排泄量とは負の相関があった。
また、運動期間中の鉄の吸収率はそれ以外の期間と比べて有意に高かった。運動は尿や汗からの鉄の排泄だけでなく、鉄の吸収も促進することが示唆される結果となった。鉄摂取量が正常以上であれば、鉄のバランスは正の状態を保つことができると考えられる。
1)摂取量
厚生労働省は、鉄の推奨摂取量を以下のように定めている。
・14~18歳
男性 11mg
女性 15mg
・19~50歳
男性 8mg
女性 18mg
※妊婦は27mg、授乳婦は9mg
一方で、公益財団法人 日本陸上競技連盟では、1日15~18mgを目安として提唱している。日本人の食事は、1,000kcalあたり6mgの鉄分が含まれているといわれる。計算上、1日2,500kcal~3,000kcalの食事で、必要量の鉄分が摂れる計算だ。これだけのカロリーが摂取できていれば、LEAに伴うヘプシジン濃度上昇リスクも抑えることができる。
2)サプリメントによる摂取は必要か?
2019年、公益財団法人 日本陸上競技連盟は「不必要な鉄注射の防止に関するガイドライン」が発表されている。注射やサプリメントによる鉄摂取に関しては、特に持久性トレーニング時においてヘプシジン濃度が上昇したという研究がある。過剰な鉄摂取が続くと、フェリチンと鉄が結合し安定化する機序が追い付かず、活性酸素の発生につながり、体内にダメージが蓄積されてしまう。鉄は基本的に食品から摂取する前提で、食事指導をするほうがいいだろう。
#FUJIIパーソナルジム #杉並区 #方南町 #駅近 #筋トレ #ダイエット #パーソナルトレーニング #ボディメイク #健康 #美尻 #体験トレーニング #FITFOODHOME #@fitfood_home
Category
New Article
Archive
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年4月