2022.10.29ブログ
第95回 腸内環境と自律神経のお話①メンタルと腸は密接につながっている
以前、腸内環境に関する話をしてから、もう2年近く前のコラムで驚いてしまいました(笑)。今改めて、このテーマを紹介する必要はないほど、腸内環境の重要性は広く知られるようになりました。
ですが、腸内環境と精神的な部分とのつながりについては、知らない人もいるかもしれません。そして、メンタルの話をする上で、自律神経は欠かせない存在です。今回は、この「腸内環境と自律神経」についてお話しします。
内臓は「副交感神経優位」で働きやすくなる?
自律神経は、もう皆さんよく知っているかもしれません。
自律神経は、交感神経と副交感神経で分かれている神経です。考え方や呼吸法などでコントロールすることもできますが、基本的には意図的にコントロールすることが非常に難しいです。交感神経と副交感神経は、絶えずバランスを取り合うことで、筋肉の緊張、心拍、血流、血圧が自動的に調整されています。
交感神経と副交感神経の役割も、皆さんご存じだと思います。交感神経は興奮度合いを高める神経であり、血流や血圧、心拍痛を高めます。恐怖を感じて逃げようとする時、攻撃的な気持ちになっている時など、闘争に関わる状況で強く働くのが、交感神経です。
交感神経優位の状態では、アドレナリンやドーパミンが多く分泌されています。これらのホルモンの作用により、人はハイテンションになったり、痛みを感じにくくなったりしています。
交感神経優位の状態を知るうえで、参考になるのが「格闘技」であり、特に興味深いのが「相撲」です。
NHKの放送やスポーツニュースで、相撲の取り組みを観たことがある人も多いと思います。わずか数秒の立ち合いなのに、取り組みを終えた力士はすごく疲労しているじゃないですか。彼らは確かにかなり大きな肉体ですが、決して体力がないわけでもありません。彼らは、いわば「極度の交感神経優位の状態」にあります。
野生動物が、獲物を追いかけたり捕食者から逃げたりする時も、強烈な興奮状態に入るため、痛みや疲れを覚えません。とはいえ、この状態は一時的なものです。戦い終わった、あるいは逃げ切った後に、その時感じていなかった疲労にようやく気づくわけです。
そして、現代人はここまで極端とは言わずとも、交感神経が優位になりやすい生活を送っています。テレビにスマホ、インターネットに街中で聞こえる様々な音…。こうした外的情報に毎日さらされているため、「常に刺激を受け続けている状態」にあるからです。
一方で、副交感神経は身体を鎮静化させる形で作用します。俗にいう「リラックス状態」であり、その最たるシチュエーションが「寝ている時」でしょう。ただ、副交感神経が優位に働くと、実は特定の臓器が活発に動きます。「特定の臓器」というのが、今回の腸内環境の話にも関連する小腸や大腸です。
実は、人間が最も活発に活動する昼間=交感神経優位に働いている時間帯は、それほど各内臓は活発に働いていません。この自律神経と臓器との関係が、腸内環境にも大きく影響します。
腸のすごい機能の数々
私たちが口にしたものは、食道、胃を介して腸へ行き、最終的に排泄されます。簡単に言えば、口から肛門まで1本の管になっているということですね。その途中に存在するのが、今回のテーマである腸というわけです。
腸は大腸と小腸に分かれ、大腸は盲腸・虫垂・結腸・直腸、小腸は十二指腸、空腸、回腸とそれぞれに分けられます。大腸は約1.5m、小腸は約7mもの長さがある他、正面にびっしり生えた絨毛によって、腸の表面積は約300㎡にもなるのです。これは、テニスコート1.5面分に匹敵します。
これだけ壮大な作りをする腸によって、私たちは栄養の消化吸収を行います。また、腸は間接的に口ともつながっているため、「外界と接している」ことになります。当然、外から菌やウイルスも侵入してくるわけですが、それが腸に影響することで、胃腸炎などの疾病にもつながってしまうのです。
この腸が元気であれば、栄養の吸収がスムーズに行われ、皆さんが口にした食物を無駄なく活用できます。食べたものがちゃんと身体に生かされるかは、腸の状況次第なんです。
こうした消化吸収と合わせて、腸はその様々な役割が注目されています。
①腸とセロトニン
「幸せホルモン」として知られているセロトニンは、脳と腸それぞれで分泌されます。セロトニンには、腸の活動を活発化させる役割があり、便秘がひどくなると腸内でセロトニンが過剰分泌されます。すると、脳内でセロトニンが不足して、不安感やイライラを感じやすくなってしまうのです。
②メンタルと腸内環境
ビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌は、腸内を弱酸性に保つよう作用します。それにより、腸内環境の善玉菌の割合が高くなります。腸内環境の善玉菌・悪玉菌・日和見菌の割合は、普段の食生活で変化しますが、実はメンタルによっても変化することが分かってきました。
特に、メンタルが不調(イライラしている、不安、ストレスが溜まっている)と、腸内環境が酸性に傾きやすくなるんだとか。結果、悪玉菌の割合が増えてしまい、腸内環境が悪化してしまうのです。
③グリア細胞が腸にも存在する
グリア細胞は、神経細胞(ニューロン)の働きを補助し、シナプスの形成をコントロールしている細胞です。脳内のネットワークを構築し、脳の環境を整える非常に重要な細胞と言われています。
そんなグリア細胞ですが、実は腸にも存在しているのです。グリア細胞由来のGDNFという成長因子は、腸管神経の細胞増殖を促します。腸管神経は腸内を網目状に走り、脳の指令を受けずに腸管の運動・血流などをコントロールします。腸は「第二の脳」と言われるのは、この優れた独自のシステムを持っているからです。
メンタルの乱れ=自律神経の乱れが腸機能を低下させる
いろいろ脱線してしまいました。今日のテーマにそろそろ戻りましょう。先ほど軽く触れましたが、メンタルというのは腸内環境にかなり大きな影響を及ぼします。例えば、すごく真面目で緊張しやすく、プレゼンの直前によくお腹の調子を崩してしまう人っているじゃないですか。あれは、メンタルの乱れ=自律神経のバランスの乱れによって、腸内環境が悪化することで起こっているのです(もちろん、それ以外の要因もあります)
うつ病患者を調べると、大腸に病気がないのに腹痛、便秘、下痢といった症状が断続的に起こる、過敏性腸症候群(IBS)の割合が多いという研究もあります。
ダイエットや健康増進において、「普段からの食生活を見直す」というのは超メジャーな戦略です。一方で、自律神経の乱れがあるままでは、栄養のある食事も効果が半減してしまうかもしれません。そもそも、メンタルが乱れている人は食事も乱れやすいです。
まずは、メンタルの不調から改善を目指していく。それが、腸内環境を整える上でも重要です。次回は、そんなメンタルの不調をどう改善していくべきか。さまざまな生活習慣のポイントを紹介したいと思います。
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